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幾センリの一次創作・ラクガキ置き場です。
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※ちょっこっと人物紹介
世界観は「ガルルルルッ!!」

6cef8f75.jpg少年: 
墓守から「天使」と呼ばれるまだ幼さの残る美しい少年。
スラムに身を置くものの、貴族の証である金髪と緑の瞳を持つ。

002.jpg墓守:通称・イエスマン
少年から「イエスマン」と呼ばれる男。火傷で顔の半分が爛れている。
天使を敬愛し共に行動している。

バーン=アディンセル:
人身売買で金儲けをしている悪徳商人。いわゆる成金。


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(1)
 地面を蹴って、私は宙に飛び出した。
地面より浮いたのはほんの一瞬。後は落ちるだけ。恐怖心などない。
そう思えばすぐに派手な音が鼓膜を震わせた。しかしそれも一瞬だ。音が遠ざかる錯覚。
水中から聞く音は普段とどこか違う。穏やかな水をまといながら、ほのくらい底を目指す。沈む沈む。

 すぐ底に手が届きそうなところで私の体は水面に浮かびあがった。
そのまま仰向けになって、飛び込んでできた波紋に身を委ね、空を仰ぐ。わずかな月明かり。
飛び込み台の丁度上に下弦の月が見える。頬を撫でる夜風が心地よい。
全ての悩み事も苛立ちも全て水が包んでくれる。
―明日はいいことがありそうな気がしてきた。
 
 
 そう昨日思って、今日はスラム街を歩いていた。
汚い大人に交じってちらほら腹を空かせた子供が、スラム街に似合わぬ格好をした私を見つけてこちらを伺っている。
子供は好きだ。
力も頭も弱く、騙しやすくさらいやすい。そして良い値がつく。
「商品」を見定めながら、私は声をかける子供を見繕い―よそ見をしていたところ、肩に鈍痛が走り体がよろめく。
キッと前を向くとフードを被った二人組が立っていた。
大男と―フードを被って顔が見えないが多分子どもの二人組。

 肩を押さえているのを見ると私にぶつかったのは大柄な男の方らしい。
「すまない、よそ見をしていた」
文句を言おうとその顔を覗き込むと思わず息を飲んだ。
酷い火傷顔。跡が残るなんてそんなものじゃない。火傷で爛れた肌の方がほとんどだ。
「化け物が、気をつけろ!私を誰だと思ってる、この貧民ども!」
そう私が怒鳴ると大男の隣に立っていた小柄な方が大男の方を向きながらぼそりと呟く。
「…陳腐。小悪党の台詞だね」
バカにされるのは勘弁ならない。
私は反射的に手を伸ばし小柄な方の細腕を掴んで引き寄せた。
勢いでかぶっていたフードがずり落ちる。
途端に目に入ってきたのは、スラム街には不似合いな金髪と緑色の瞳。

―貴族の証じゃないか!

貴族の子供に手をだしてしまったか、と思ったが、すぐにいやいやと否定する。
世間体を気にする貴族のガキがこんな場所でこんなに痩せ細った腕をして、あんな化け物みたいな従者をつれているわけがないじゃないか。
貴族と娼婦の間に生まれてたまたま、貴族の証がでてしまったか、既に没落して力のないガキに違いない。
 
 しかし改めて顔を見れば端正な顔立ちをしている。
男だろうか、女だろうか。声の低さからいって多分少年だろう。
少しやせ過ぎではあるものの、美しいことに間違いはない。
これはまさしく昨日思った「いいこと」なのかもしれない。
これはいい商品だ。間違いない、高値で売れる商品だ。
 
 大男が、私の手を振り払うためか、動こうとすると、少年は「よせ」と男を制止する。
どうやら、少年の方が立場が上らしい。
私は顔の筋肉を急いで緩ませて、笑顔を取り繕った。
そんな私の態度を怪訝そうな顔で見るが少年が口を開く前に、私はさえぎる。
「あぁすまない!痛くしてしまって。君があまりにも痩せてしまっているからつい気になってしまって!」
私が少年の腕をなでると少年は明らかに嫌そうに顔を歪ませた。
「こんなに痩せてしまってかわいそうに!お腹は減っていないかね?子どもが腹を減らすだなんて可哀相に。あぁ失礼した私はこういうものだ」
私は相手が字なんて読めることを期待せず名刺を目の前にかざす。これで読めればさらに価値がつきそうという思惑をもって。
「バーン=アディンセル…?」
これはなんというラッキー。私は胸元へ名刺をしまい直す。
「君は字が読めるのか!あぁもったいない、字も読めて、君は自分の姿を鏡で見たことあるかね、君はとても美しい」
「それはどうもありがとう」
少年はにこりと口元だけ緩ませ、しかし態度は触るなと言わんばかりに腕を横にはらった。
私の腕は振り払われるが、今はそんな失礼な態度も気にならない。
目の前のこれをなんとしても手に入れたいと思って私はまくしたてる。
「もったいない、君はこんなところで落ちぶれている人材じゃない。君が望むなら私が支援してあげよう。君はきっと逸材になる。
いやだろう、こんないつ飯にありつけるかもわからない、いつ襲われるかわからない、こんな希望もないところで朽ちるのは?
君はそんな化け物といるのも嫌なんじゃないか。守ってもらいたいから仕方なくいるんだろう」
「…」
少年は押し黙り下を向いた。拳に力をいれ、唇をかみしめているようにも思える。
もうひと押しだ。もうひと押し!
「さぁ我が家に君を招待しよう。何も必要なものなどない、君の体ひとつあればいい。別世界につれていってあげよう。まずは暖かい服と暖かい食事が君を待っている!」
 私は強引に話を進め、もう一度少年の手を掴み有無を言わさず、スラムの出口へと踵を返す。
「…待て!」
醜い男が私たちの背に向かって怒鳴った。少年が振り返る。

迷うな迷うな。私と共に来い!

「何を迷うことがあるのか、ここにいても、あの化け物といても未来はないよ、君は賢いからわかるね?」
少年はしばらく考えていたがやがて男に背を向け前を向きなおす。
 I'll be right back
少年が口早に何かを呟いたが異国の言葉なのか聞き取れない。
しかし私におとなしくついてくるところを見るとさよならのあいさつか何かだろう。
 
 目の前に誘惑をぶらさげてやれば、子どもなんてこんなものだ。
私は今日一番の笑みを浮かべた。
 

(2)
 広い自室に少年を招き入れる。
召使に暖かい食事を持ってこさせ、紅茶を注がせて外にだす。
召使の同席をゆるしたことはない。私の仕事は私だけでやる。
私が大金をどうもうけているか薄々感づいている者もいるだろうが他言無用だ。
彼らも職なしにはなりたくなかろう。はっきりと見てしまえば誰かに言いたくなるものだ。
冴えない三流の商人が人身売買でのし上がったなど噂ぐらいにしておくのがよい。
 
 一方、少年は窓の外を見て暇をつぶしていた。そして一点を指さす。
私も少年の横に立ち指した方面を見ると私のお気に入りの場所が見えた。
「あれは…プールですか。自宅にプールなんて豪勢ですね。…いい仕事をしているみたいだ」
そう、私は金になる仕事をしている。君はそのための大事な商品だ。
頭ではそんな言葉を浮かべながら、口では会話を合わせる。
「君は泳ぐのが好きなのかい?」
「いえ、昔溺れかけたことがありまして、それからどうにも水が苦手なんです。どうにも大量の水があると思うと落ち着かないな…」
「水は脅威にもなるが、基本的には暖かく包み込んでくれるものだ。ほら、あそこに高台が見えるだろう。私は毎晩あそこから、飛び込み、深く潜り、水に身を委ねるのが好きなんだ」
「それはクレイジー」
少年は苦笑し、私の横をすり抜けて料理へと戻る。
そして紅茶の注がれたカップを持ち上げ、今までに聞いたことのない無邪気な声をあげた。
「うわぁ、きれいなカップ!」
背中ごしに見るだけだが、きっとその顔には子供らしい笑顔が浮かんでるんだろう。やっぱり大人ぶったところで子供は子供だ。
「それじゃあ席に着こう。料理を食べたらお風呂に入って今日はもう寝るといい」
そうして私と彼のささやかな最後の晩餐が行われた。
 


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15/9/13
TOP絵変更+小噺に【夢から醒めた彼女らの行方】追加。


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