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幾センリの一次創作・ラクガキ置き場です。
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こちらは裁きの後編になります。前編はこちら→裁き/前編



(3)
 目覚めると既に日は落ちていた。急いで顔をあげ周囲を見るが、あの少年の姿はどこにもない。
なぜ寝てしまったのか!
しかしその理由は少年が残した書き置きで解決した。
 
「特効薬入りの紅茶はいかがでしたか。その後ぐっすりと眠られてしまったようなので、私は先にお暇致します。招待を今日はどうも。そうそう、一つだけ。私は貴方の悪事を告発しようだなんて考えておりませんので、ご安心を。全ては神が裁きます」
 
くそ、やられた!きっとあのカップを持ち上げた時にやったに違いない。
何が神だ、忌々しい。神などいるものか。こんちくしょう。神様なんて糞くらえ。
私は必死の思いで、窓から庭を覗き少年の姿を探すが、もう既に暗いのもあってよく見えない。
明るかったところでもう少年はいないだろう。

色白で見事な金糸の髪、まだ幼さの残る端正な顔を思い出す。
ああ、きっと高値がついただろうに!
私は拳を握りしめた。窓の近くでかわした少年との会話を思い出す。
そうだ、泳ごう。こんな時は水に身を任せるに限る。
今日は新月だ。月明かりもない。真っ暗な中で、ただひたすら水に揺られ、忘れてしまおう。
私は高台に上る。何も見えない。波紋の揺れさえ見えず、少しの胸騒ぎがする。
いやいや、高台から飛び出し、しばらくすれば暖かな水が私を包んでくれるはずだ。
神だのと書かれた変な書き置きのせいで、ざわついているだけだ。杞憂だ。
そういつもと変わらない。
私は深呼吸を一つして、いつものように地面を蹴って、宙に飛び出した。そう思えばすぐに派手な音が鼓膜を震わせ…


(4)
 いつものように墓の見回りを終え、肋小屋へ戻る。
天使が心配だ。わざわざあのような男の元に自ら行くなんて。
天使の顔を見た時のあの態度の豹変ぶり。よからぬことを考えているのは学のない私でもわかる。
大方、売り飛ばして金にするつもりだろう。
無事だろうか。
あの子は私が生まれて初めてであった光なのだ。私を初めて化け物扱いしなかった唯一の美しき人。
本当の天使ではなくても、私にとって天使なことには変わりがない。何かあっては困る。光を失ってしまったら私はどう生きていけばいいのか。
 
しかし我が家である肋小屋のドアを開くとそんな心配はすぐに杞憂だということが分かった。
「お帰り、イエスマン」
天使は椅子に腰かけ壊れたラジオを手にしながら、私を出迎えた。
随分前に帰っていたのだろうか。
机の上にはドライバーが散乱している。多分、暇で直していたのだろう。
間もなく途切れ途切れながらラジオから人の声が流れてきた。

「うん、なんとか聞こえる」
満足気に言うと、天使は鼻歌を歌いながらチャンネルを合わせ始める。
あの男の所に行ったのにまったくいつも通りだ。いや、むしろいつもよりご機嫌か。
あの男と一体何を話してきたのだろう。
気にならないといえば嘘になるが、問うことは止め、私は天使が散乱させたドライバーを片づけることにした。
黙々と私が片づけていると天使はラジオから目を離さずに言う。
「嫉妬かい?僕が別の男のところに行ったから」
「…なぜあのような男の誘いに乗ったのか気になるだけですよ」
天使に嘘をついても仕方ない。どうせ見破られてしまうだろう。私は正直に述べた。
「悪には鉄槌を!ってところかな?アイツは君を何度も化け物と馬鹿にしたからね」
「…あの男を殺したのですか」
この顔で化け物と呼ばれるのなんて慣れている。そんな汚れ仕事私に任せてくれればいいのに。
しかし天使は笑い飛ばした。
「どうやってこの骨みたいな腕で彼を殺すというのさ。まだ彼は生きているよ。彼は自ら死ぬんだよ」
そういうと彼は長い袖を捲って腕を出して見せた。白く痩せ細った腕に残る手錠の後が痛々しい。
くすくすと笑いながら天使は続けた。
「大体、彼の家には長居したくなくてね。信じられる?自宅にプールだよ、高い飛び込み台があるの。…イエスマンは今日も見回り?」
「墓守ですから」
私は突然振られた今更な話題に戸惑いながら答えた。
そういうと天使は墓守ね、と小さくつぶやいて複雑な顔をする。
「君は一日たりとも墓地の見周りをやめたことがない。習慣化しているね」
「そうですね、墓を見回らないとなんだか落ち着きませんね」
「あの男の習慣は自宅にあるプールの高台からとびおりて深く潜水することなんだってさ」
はぁ、と私が話の意図をつかめずに曖昧な声を漏らす。
もっと言葉を付け足すべきか悩んで口を動かそうとすると天使は口の前に人指し指を立てた。
ラジオから緊急のニュースが入る。天使はラジオを耳に近づけて耳を集中させた。
 
途切れ途切れだが、はっきりと確認することができた言葉が一つ。
「バーン=アディンセル氏の死亡が確認されました」
 
バーン=アディンセル。確か昼間の男の名前だ。
「あっは、死にました。彼は死にました!神よ、愚かなる魂をその広い御心で抱きたまえ」
その言葉を聞いて満足したのか天使はラジオをの電源を切った。
「どういうことです…?」
「あの男のことだから神さえも冒涜し、神の怒りを買ったんじゃないかな」
天使はそこで意味ありげにいったん区切りこちらを向いて満面の笑みを浮かべた。
「僕はプールの水を抜いてきただけだから」

「裁き」END


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15/9/13
TOP絵変更+小噺に【夢から醒めた彼女らの行方】追加。


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